ドン・キホーテ前社長逮捕。東京地検特捜部の尾を踏んだか

ドン・キホーテHD(現PPIH)の前社長が金融商品取引法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕されました。
逮捕容疑はドン・キホーテHDの重要事実公表前に知人に株取得を推奨した疑いです。それにしてもこの事案、逮捕するほうもなかなか勇気がいるような曖昧さを含んでいるのです。
逮捕の根拠
今回の逮捕の根拠となったとは、金融商品取引法167条の2(※)となります。
具体的には取引勧奨行為といい、2014年に法改正されて規制対象となりました。重要事実を知った会社関係者がその公表前に第三者の利益を図るために取引を勧める行為が禁止されています。
改正後、6年経っていますが、一般的に周知されているとは言い難く、今回の事件でも前社長はそんな改正は知らなかったと発言しているようです。また、そんなことが禁止されるならば、自分が行ったIRはすべて違法になってしまうとも言っております。
(※)金融商品取引法167条の2(未公表の重要事実の伝達等の禁止)
上場会社等に係る第166条第1項に規定する会社関係者(同項後段に規定する者を含む。)であつて、当該上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を同項各号に定めるところにより知つたものは、他人に対し、当該業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて、当該業務等に関する重要事実を伝達し、又は当該売買等をすることを勧めてはならない。
(下線は追記)
上場会社等に係る第166条第1項に規定する会社関係者(同項後段に規定する者を含む。)であつて、当該上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を同項各号に定めるところにより知つたものは、他人に対し、当該業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて、当該業務等に関する重要事実を伝達し、又は当該売買等をすることを勧めてはならない。
(下線は追記)
金融商品取引法改正の原因
それにしてもなぜこのような規制が導入されたのでしょうか。
きっかけは「増資インサイダー問題」です。ある会社が公募増資をすることとなった場合、それを知った証券会社の社員が顧客である機関投資家に事前にその事実を伝えるような事案が連発しました。
公募増資をすると市場に流通する株式数が増えて、1株利益が減るのが一般的であり、株価が下がることが多いのです。
情報を受けた機関投資家は、その会社の株を持っていれば先に売ってしまうでしょうし、買おうとしていたならば見送ることになるでしょう。
このような場合、情報を受け取って取引をした機関投資家を罰する規定はありましたが、情報の伝達をしたり、取引を勧めた側を罰する規定がなかったのです。この点が問題視され、法改正に至ったというわけです。
今回の事件のポイント
2018年10月11日、ユニー・ファミマHDはTOB(株式公開買付)でドンキHDの株式を20%取得すると発表しました。
そして、TOB発表前の2018年9月に、前社長は知人男性に利益を得させる目的でドン・キホーテHDの株を買うことを勧めたという容疑です。
知人男性は前社長に「株を買っておけ。」と言われたといいます。理由を尋ねると「言えない。」と答えたそうです。
この発言が直接のきっかけとなったかどうかはわかりませんが、知人男性は同社株を9月上旬から10月上旬にかけ、4億3千万円もの金額分取得し、TOB公表後に売却し、多額の売却益を得た模様です。
以下は2018年9月から10月にかけてのドン・キホーテHDの株価推移です。確かに10月11日あたりを境に株価が一段高していることがわかります。

考えられる問題点
今回の事件で考えさせられるのは、嫌疑を証明するには人の内心まで踏み込まなければならないという点です。
例えば酒の席で、「おまえの会社の株は買いか?」と聞かれた場合、まさか「売りだ。」とは言えないでしょう。自分が社長を務めているのにそんな自己否定ができるわけがありません。
必然として答えは、「買いに決まっているだろう、買え。」などか「そんなことはわからないよ。市場が決めることだろう。」などという白けた返答になります。
場を白けさせるような人が社長になれるとも思えないので、前者のような返答が多くなると思います。
しかしこの時、社長が重要事実を知っていたならばそれは冗談では済まなくなってしまうというのが金商法167条の2なのです。
罰則は・・・
違法な取引推奨をした場合、その罰則は決して軽いものではありません。下記のとおり、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方となります。
金融商品取引法第197条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(中略)
十四 第167条の2第1項の規定に違反した者(当該違反により同項の伝達を受けた者又は同項の売買等をすることを勧められた者が当該違反に係る第166条第1項に規定する業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該違反に係る特定有価証券等に係る売買等をした場合(同条第6項各号に掲げる場合に該当するときを除く。)に限る。)
(下線は追記)
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(中略)
十四 第167条の2第1項の規定に違反した者(当該違反により同項の伝達を受けた者又は同項の売買等をすることを勧められた者が当該違反に係る第166条第1項に規定する業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該違反に係る特定有価証券等に係る売買等をした場合(同条第6項各号に掲げる場合に該当するときを除く。)に限る。)
(下線は追記)
しかし、軽微なものや悪質性が少ないものについては課徴金の納付で済むこともあります。取引を推奨した者が、取引をした者が得た利益の2分の1を国庫に納めることになります。
金融商品取引法第175条の2
第167条の2第1項の規定に違反して、同項の伝達をし、又は同項の売買等をすることを勧める行為(以下この項において「違反行為」という。)をした者(以下この項において「違反者」という。)があるときは、当該違反行為により当該伝達を受けた者又は当該売買等をすることを勧められた者(以下この項及び第3項において「情報受領者等」という。)が当該違反行為に係る第166条第1項に規定する業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該違反行為に係る特定有価証券等に係る売買等をした場合(同条第6項各号に掲げる場合に該当するときを除く。)に限り、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、当該違反者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
(中略)
三 前二号に掲げる場合以外の場合 当該違反行為により当該情報受領者等が行つた当該買付け等又は売付け等によつて得た利得相当額に二分の一を乗じて得た額
(下線は追記)
第167条の2第1項の規定に違反して、同項の伝達をし、又は同項の売買等をすることを勧める行為(以下この項において「違反行為」という。)をした者(以下この項において「違反者」という。)があるときは、当該違反行為により当該伝達を受けた者又は当該売買等をすることを勧められた者(以下この項及び第3項において「情報受領者等」という。)が当該違反行為に係る第166条第1項に規定する業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該違反行為に係る特定有価証券等に係る売買等をした場合(同条第6項各号に掲げる場合に該当するときを除く。)に限り、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、当該違反者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
(中略)
三 前二号に掲げる場合以外の場合 当該違反行為により当該情報受領者等が行つた当該買付け等又は売付け等によつて得た利得相当額に二分の一を乗じて得た額
(下線は追記)
最後に
今回の事件は東京地検特捜部が動いています。とても課徴金で済むような事案とは考えられません。
泣く子も黙る東京地検特捜部。彼らは日本最強の捜査機関です。東京地検特捜部が動いて起訴されれば有罪率は99%以上といわれています。
前社長は東京地検特捜部の尾を踏んでしまったようです。ライブドア事件、村上ファンドなど出過ぎる杭は社会への見せしめのように制裁されます。今回の事件もそのような雰囲気が漂います。
しかし、内心の問題をはらみ、明確な証拠をつかむのは難しい。状況証拠を積み重ねていくほかありません。
金融庁のサイトに情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A(金融商品取引法第 167 条の2関係)なるものがありました。以下はその一部抜粋です。
(問)
未公表の重要事実を知っている上場会社等の役職員が、家族や知人に対し世間話として重要事実を話してしまった場合には、情報伝達規制の対象となるのでしょうか。
(答)
情報伝達・取引推奨規制の対象となる行為は、上場会社等の重要事実を職務等に関し知った会社関係者が、「他人」に対し、「重要事実の公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させる」等の目的をもって情報伝達・取引推奨を行うことです。
このため、「重要事実の公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させる」等の目的を有していなければ、日常会話の中で重要事実を話したとしても、基本的に規制対象とはならないものと考えられます。
ただし、上場会社等の未公表の重要事実を、業務とは関係のない他人に話すことは、インサイダー取引が行われるおそれを高めるものであり、また、上場会社等の社内規則に違反するおそれもあるため、情報管理に留意する必要があると考えられます。また、日常会話の中で重要事実を聞いた家族や知人が重要事実の公表前に取引を行えば、当該家族や知人はインサイダー取引規制の違反となることにも留意する必要があります。
(下線追記)
未公表の重要事実を知っている上場会社等の役職員が、家族や知人に対し世間話として重要事実を話してしまった場合には、情報伝達規制の対象となるのでしょうか。
(答)
情報伝達・取引推奨規制の対象となる行為は、上場会社等の重要事実を職務等に関し知った会社関係者が、「他人」に対し、「重要事実の公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させる」等の目的をもって情報伝達・取引推奨を行うことです。
このため、「重要事実の公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させる」等の目的を有していなければ、日常会話の中で重要事実を話したとしても、基本的に規制対象とはならないものと考えられます。
ただし、上場会社等の未公表の重要事実を、業務とは関係のない他人に話すことは、インサイダー取引が行われるおそれを高めるものであり、また、上場会社等の社内規則に違反するおそれもあるため、情報管理に留意する必要があると考えられます。また、日常会話の中で重要事実を聞いた家族や知人が重要事実の公表前に取引を行えば、当該家族や知人はインサイダー取引規制の違反となることにも留意する必要があります。
(下線追記)
利益を得させる目的があったかどうかをいかに証明するか。今後の展開にも注目していきたいと思います。
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