ROE上昇で将来尻すぼみ。高ROE経営の罠

ついに日経平均が30年ぶりに3万円台に入りました。デフレ世代にとっては未知の領域に入りつつあり、過去の経験則は役に立ちそうもない。その都度、動物的勘でもって投資判断していくほかなさそうです。
ところで、ROE(自己資本利益率)が8%以上となると株価が急に上がり出すというのは以前書いたとおりです。
一般論として、ROEが高いことは良いことだと思われているのではないでしょうか。しかし、実際のところ高ROE経営は企業の将来を危ぶませる危険を秘めています。
日本企業とROE
日本企業は長らく、ROEが低くて効率が悪いという批判にさらされてきました。それを決定的にしたのは2014年8月に公表された経済産業省の「持続的成長への競争力とインセンティブ」(通称:伊藤レポート)です。
そして事実、ROEが8%を超えると、突如として株価水準が変わることが多いのです。ですから、企業経営者としてはなんとしてもROE8%以上にもっていくことが目的化しています。
以下は日米欧の上場企業のROEの推移です。

(出所:経済産業省)
日本は確かに欧米企業に比べて低い。しかし2014年以降、その差は縮まりつつあります。
ROEを高める施策
ROEは以下の式で計算できます。
(当期純利益÷自己資本)×100
ROEを高める方法は3つしかありません。
純利益を多くするか、自己資本を減らすか、あるいはその両方です。
純利益を多くするために用いられるよく使われる手法の一つは研究開発費の削減です。簡単にいってしまえば、過去の遺産で食っていくということであり、将来的には時代から取り残されて競争力を失うことが予想されます。
また、自己資本を減らすために有効な手立てが自社株買いです。
利益が増えなくても、自社株買いにより自己資本を減らせばROEは上昇する。しかし、自社株を買った資金を研究開発や設備投資に回していれば将来、花を咲かせることができたかもしれません。
要するに、将来のために種をまくことを止め、目先の利益だけを追い求めるのが、高ROE経営の考え方だといえます。
欧米企業の労働生産性の伸び鈍化
日本企業の労働生産性の低さはよく指摘されるところです。
しかし、欧米の企業にあっても労働生産性の伸びは近年、低下傾向にあります。さまざまな要因があるとは思いますが、高ROE経営がその要因の一つであることは明らかでしょう。


(出所:日本銀行)
「日本的経営」という曖昧な言葉
「日本的経営」と聞けば、多くの人はネガティブなイメージを持つのではないでしょうか。しかし、この言葉、時代によってイメージが大きく異なっているというのが実際のところです。
第二次大戦後、日本的経営は、豊かで進んだアメリカ企業の経営に比べて時代遅れだという悪い意味で使われたといいます。
ところが、日本が高度成長期を迎えると、終身雇用や年功序列型などの日本的経営は優れた経営システムとして欧米に認知されることとなります。
欧米企業が日本企業に学ぶなどという今では考えられない時代もあったのでした。
しかし、その後バブルが崩壊してデフレに突入。すると、たちどころに日本的経営はコストが高くついて、雇用の流動性を欠く非効率な経営システムだと蔑まれるようになり、今もその名残を残しています。
最後に
人の評価ほどいい加減なものはないと実感させられます。
目先の利益にとらわれた高ROE経営を無謀に進めれば、やがて日本企業の競争力はさら弱体化していくに違いありません。
株主至上主義に屈することなく、中長期的な成長に向けた研究開発力の強化や人材育成こそが未来の高株価の維持につながるものだといえます。
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