四半期開示が経営の短期志向を促進したというステレオタイプ的見方

金融

岸田政権では企業経営の短期志向を是正しようと、四半期開示の見直しを行う予定となっています。

新たに設置された「新しい資本主義実現会議」において議論がなされていくといいます。

四半期開示により経営者が株主の意向に沿って短期の利益を重視する結果、長期的な設備投資を控え、結果的に長い目でみると競争力が低下するというのが定説となっています。

しかし、それは本当なのでしょうか。






「新しい資本主義実現会議」とは


2021年10月15日の閣議決定で岸田政権は「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、「新しい資本主義実現会議」を設置することを決めました。

本部長は内閣総理大臣、副本部長は新しい資本主義担当大臣、内閣官房長官、本部員は他の全ての国務大臣となっており、総理肝いりの会議であることがわかります。

有識者構成員そのメンバーは?


さらにメンバーには各界の有識者が加わることとなっており、以下がそのメンバーです。

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(出所:内閣府)

ざっと見て、いつものメンバー(なんとか平蔵氏とか栗きんとん氏とかローソンサントリー社長とか)の名は見当たらない。

さすがに岸田首相もメンバーの選抜には気を使ったのであろうと推測します。

そして、11月8日付けの緊急提言には以下のような文言が入っています。

(抜粋)
企業の人的投資を促進するため、金融審議会において、企業の人的資本への投資の取組などの非財務情報について有価証券報告書の開示の充実に向けた検討を行うとともに、投資家や企業の意見を踏まえ、市場への影響を見極めた上で、適時開示を促進しつつ四半期開示を見直すことを検討する。

岸田政権は新自由主義からの決別を目標としており(本当に実現するかは眉唾だが)、株主資本主義の象徴として、四半期開示が挙げられたものと考えます。

四半期開示の是非


ところで四半期開示は、企業経営者の短期志向を本当に助長するのでしょうか。

これに関してはいくつかの研究があり、その結論は割れているのが実際のところです。

短期志向を助長するという研究例としては、ドイツの大学による2017年の研究やイギリスの大学の2018年の研究があります。

ドイツの研究では2005年~2013年の欧州15か国のデータを分析すると、四半期開示が義務付けられるとその直後の利益水準が上がり、その後3年から5年で四半期開示をしていない企業よりも利益水準が若干下がるという結果が出ています。

また、イギリスの研究では、1950年~1970年にかけ、アメリカで四半期開示が義務付けられた企業は投資が減少したとしています。

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一方で逆の結果を示す研究も


アメリカの大学の研究成果として、四半期開示の導入があっても、その後の投資に有意な差は見られず、四半期開示をやめたからといって、投資も増えなかったという結果があります。

日本では、2003年に証券取引所の規則で四半期開示が義務付けられ、その後2008年に金融商品取引法で法的な義務付けが行われています。

予想に反し、日本では四半期開示導入後、設備投資は増えているというのですから、ステレオタイプ的に四半期開示で企業の短期志向が高まるなどと言い切ることはできません。

投資家の意見も分かれる


日本国内の市場関係者への調査では、政府の四半期開示見直しの動きに、賛成が41%、反対が48%と真っ二つに意見は割れています。

研究成果もまちまちであり、意見が割れるのは当然だといえるでしょう。

私個人的には、四半期開示によって投資が減るなどということはないと考えます。

それは日米の情報通信産業の研究開発費を見れば明らかです。

日本は2008年から2019年までほとんど横ばいでまったく増えていない。しかももともとが少ない。

一方、アメリカはその間、2倍に増えており、もともとが巨額だったために、日本との差は20倍以上となっており、もはや勝負にならないレベルに達しています。

アメリカは四半期開示が徹底されているにもかかわらず、必要な投資は旺盛に行っているのです。

一方、日本の設備投資が伸びないのはひとえに経済の市場規模が大きくならないデフレが継続しているからにほかならないと考えます。

最後に


結局、株主からのプレッシャーの大きさが短期志向になるかどうかを決める分水嶺であろうと推測します。

アクティビスト投資家に多くの株式を保有されれば、経営者としては短期志向にならざるを得ない。

うるさいハゲタカに餌をあげなければクビになるか、会社を買収されるかもしれないのですから。

その点、日本はまだ株主からのプレッシャーは欧米ほどではないことがわかります。

おまけに四半期開示は大きなコストもかかるし、人的負担も大きい。いっそのこと義務的に行うのは廃止したほうがよいというのが個人的見解です。

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