生保会社のヘッジ無し外債投資。この円安下で報われるのか?

日本の生命保険会社が、為替ヘッジ無しで外国債券への投資を増加させています。
今後の円高リスクが低いという見方からですが、1ドル114円前後(2021年11月中旬)という円安水準の中でのヘッジ無し外債投資・・・。
それは吉と出るのか、凶と出るのでしょうか。
外債投資の積極要因
主要な日本の生命保険会社が為替ヘッジをしない外国債券投資に積極的になっています。
積極的になっている理由は主に2つに集約されます。
1.米国の利上げを先取り
アメリカは2021年11月にはテーパリングを開始。現状においてFRBは利上げにまでは踏み込んでいませんが、インフレ傾向の高止まりから早期に利上げに踏み切らざるを得ないという見方が大勢です。
一方、日本は依然として緊縮財政の罠から抜け出せず、物価上昇率が低いため日銀は金融緩和を続けるほかありません。
当然、日米金利差は拡大し、米国金利が相対的に魅力的となります。そのために米国への資金の流れは当面続き、円安傾向が続くという見方です。
2.日本の貿易収支の変化
かつて、日本は輸出大国であり、毎年大幅な貿易黒字を計上してきたわけですが、極端な円高による工場の海外移転、昨今の原油高騰により、もはら貿易収支はトントンのレベルです。
(参考:日本の貿易収支にかつての面影なし)
直近2021年8月、9月は連続して貿易赤字となっています。海外から資源を買うには円を売ってドルを買う必要がありますから、当然円安圧力がかかるというわけです。
自らの資金がさらに円安を加速する
日本人の保険好きは世界的にも有名です。
2019年の世界の生命保険の収入保険料は約320兆円で、そのうち日本は全体の11.7%に当たる約37兆円を占めています。
一方、日本のGDPが世界に占める比率は5.8%ですから、経済力以上に生命保険に加入していることがわかります。
ちょっと脱線しますが、ここ20年の日本のGDPの落ち込みはすさまじい。

購買力平価(PPP)ベースで見ても世界各国にどんどん抜かれていることがわかります。

(出所:社会実情データ図録)
バブル崩壊が招いたデフレからの脱却が未だにできていないことの証です。
閑話休題。
生命保険加入者が払った大量の資金が生命保険会社に流れ込み、生保会社の運用資金は世界の金融市場を動かすほどです。
日本国内の各生命保険会社の保有する有価証券を合計すると300兆円を超える金額となり、これはクジラと呼ばれるGPIFが保有する有価証券約200兆円をも大きく上回ります。
その巨大さゆえ、自らの外債投資が円安を招くというほどの影響力があります。
今後、生保会社がヘッジ無し外債投資を増加させていけば円安圧力が増し、円高圧力は小さくなります。
長期的傾向から考える
外国為替相場は金利差だけで動くわけでもなく、多種多様で複雑な要因が絡み合っています。
有事の円高などと呼ばれたように、国際紛争などが起これば金利差に関係なく円が買われることもあります。
しかし、長期的な推移を見るとほぼ購買力平価から見た為替レートと連動していることは明らかであり、以下のような傾向があることがわかります。
1.消費者物価指数まで円安となることはまずない
2.輸出物価指数まで円高となることはまずない
3.企業物価指数を中間値と考えることができる
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現状はどうか
それでは現在の状況はどのようになっているのでしょうか。

現状の1ドル114円程度は、消費者物価指数から見た為替レートとほぼ同等であり、ここからさらに円安に振れる可能性は低いと思われます。
最後に
上記の視点から考えると、生保会社のヘッジ無し外債投資は失敗する可能性が高いとみます。
無論、生保会社はそんなことは百も承知でリスク管理しているのですから、資産全体に影響を与えるまでには至らないでしょう。
しかし、個人投資家が現状の為替水準で外債投資を増加させるのはいささか危険と考えざるをえません。
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