MMT(現代貨幣理論)でどうにも腑に落ちない疑問点

貨幣



デフレ脱却のために活用できると期待が膨らんでいるMMT(現代貨幣理論)。

個人的にはかなり納得できるものがあります。しかし、どうしても腑に落ちない点があるのです。



そもそもMMTとは


その前にMMTの考え方の一部を復習しておきたいと思います。

・自国通貨を発行できる政府は、デフォルトすることはない。
・自国通貨建ての国債は、デフォルトすることはない。デフォルトするのは外貨建ての国債を発行している場合のみである。
・上記理由からアメリカや日本は、財政破綻の心配などせず、財政支出が可能である。ただし、財政支出を拡大したところで供給が需要に追いつかないとインフレになる。


たしかに自国通貨を持ち、自国通貨建ての債務で破綻した国は皆無です。しかし、自国通貨を持っている国が、他国通貨建ての債務で破綻した例はいくつもあります。

例を挙げれば、アルゼンチンです。アルゼンチンは自国通貨「ペソ」を持っています。ロシアも自国通貨「ルーブル」を持っていますが、過去に債務不履行を起こしています。

自国通貨を持っている国が破綻したのはなぜ?


問題は自国通貨を持っているのに「なぜ他国通貨でお金を調達する必要があったのか?」という点です。

これには他国との貿易などによる経常収支が黒字か赤字か?外貨準備は十分にあるか?対外純債権国か対外純債務国なのか?、がキーポイントになると想像します。

極論ですが、アルゼンチンが鎖国をしていたら、外貨(具体的には米ドル)は必要ないでしょう。貿易でドルを使う必要がないからです。

しかし、実際には自国に無い物は他国から輸入しなければならないし、その際にはほとんどドルでの決済になるので、どうしてもドルが必要なのです。

ペソが十分に価値ある通貨であれば、さまざまな人がドルとの交換に応じてくれるでしょう。しかし、ペソが信認を失ったら・・・。

「ペソなんか貰っても、アルゼンチンで買う価値のあるものなどないよ。」と人々が考えたら、ペソを買ってドルと交換する取引には誰も応じなくなるに違いありません。

そうなると、アルゼンチンが取りうる策は、ドル通貨を直接借りることです。それしか手がないと思うのです。そうしないと海外の品物が手に入らないのですから。

しかし、借りたドルはドルのまま返さなくてはなりません。ペソの信認を取り戻すことができなければ、あるいはアルゼンチンでしか買えない魅力ある商品を創り出すことができなければどうなるか・・・。

借りたドルは輸入品に化けてしまっていて、ドルを返すことはできなくなって債務不履行に陥ります。

日本はアルゼンチンと何がどう違うのか?


日本には日本でしか生産できない魅力ある商品がたくさんあるので、貿易黒字となっているし、円の価値を保つことができています。

しかし、この辺りのことがMMTの説明で聞くことができないのです。(少なくとも私の接する情報では・・・。現在、中野剛志さんと三橋貴明さんの本を読み進めているので、ぶち当たるかもしれません。)

MMT提唱者であるステファニー・ケルトン教授が政府債務の対GDP比率に注目するのは意味がなく、経済全体のバランスが重要であると言っているのは、間接的にそのことだろうと推測はするのですが、いまひとつ抽象的なのです。

| 三橋さんのMMT入門における誤り


ちょっと横道にそれます。三橋貴明さんが書かれた「MMT入門」(経営科学出版)には、銀行が貸し出せるお金は原則無限であり、唯一の制約は日銀準備預金であるかの如く書かれています。
(ちなみに「MMT入門」は経営科学出版のサイトでないと購入できないようです。)

そして、日本の銀行は最低でも2京3,769兆円の預金(貸出)を創り出すことができるとしています。

しかし、実際には銀行がそんな無尽蔵にお金を貸せるはずはなく、自己資本比率規制(BIS規制)によって制約が課されています。

ざっくりですが、日本の銀行等金融機関の自己資本は60兆円ほどと推計します。これまた大雑把にいえば、自己資本の25倍までの貸出ができるので、最大でも1,500兆円ほどになるはずです。

メガバンクは実際のところ、自己資本の12.5倍までしか貸出ができないのでもっと少なくなるのが本当のところです。推計1,200兆円くらいではないかと・・・。

それでも実際に貸出が行われているのは600兆円ほどですから、まだまだ貸出余力は十分です。というか銀行は貸したくてしかたがないというのが現状です。(実際の計算はもっと複雑怪奇ですので大まかな金額です。)

しかし、2京円と1,500兆円では10倍以上の開きがありますので、大きな違いです。

三橋さんはこれを知っていて書かないのなら読者を馬鹿にしていますし、知らないとなると、これまたせっかくのMMTの信憑性に味噌がついてしまいますから、正確なことを書いてもらいたいです。

MMT反対論者に付け入る隙を与えてしまいかねません。(私は三橋さんの大ファンなので念のため。)

MMTを確信に変えるために・・・


MMTの正しさを確固たるものにするに、アルゼンチンは自国通貨を持っていたのになぜ財政破綻したのか?、なぜアルゼンチンは他国通貨建てでお金を借りる必要があり、日本にはないのか?、そして、将来的にもそれがどう担保されるのか?、をきちんと説明できれば、MMTへの信頼は非常に高まると思います。

これが説明できないと、

「MMTを実践すればインフレが制御できなくなる。」
「いやいや、そもそもデフレなんだからMMTに基づく財政支出でインフレにしてからそれをコントロールするんだ。」
「そんなことできるわけがない。」

の論議が永遠に続き、経済学者がますます分断されていくだけでしょう。

別にケチをつけているのではありません。私の脳みそではどうしてもわからないのです。残念ながら・・・。わかる人いたら教えてください!

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