PPIH(ドン・キホーテ)、巨大企業化への野望と生みの苦しみ

海



先日、新聞の広告欄に、流通情報誌「激流」なるものの広告が掲載されており、その中に「ドン・キホーテ 揺れる王国」という見出しがあったので気になっておりました。

ふらっと書店に立ち寄ると「激流」が一冊並べてあったため、手に取ってみたのです。

立ち読みのつもりでしたが、なんと数十ページにわたる特集記事であり、とても立ち読みできる分量でもなく、書き出しもかなり驚きの内容であったゆえ、思わず買ってしまったのです。



大原孝治前社長は退職していた!


PPIH(7532)の社長が交代したことは新聞報道で知っていました。そして、前社長の大原氏は、アメリカ市場の開拓に専念するため、アメリカ市場を統括する会社の社長になると発表されていましたし、私もそうなったものだと思っていました。

ところが、PPIHの株主総会が開かれた2019年9月25日、大原氏は社長退任のみならず、PPIHそのものを退職したというのです。

アメリカ事業に専念すると意気込みを語ったのが8月13日。そのわずか1か月後には退職。1か月あまりの間にいったい何があったのでしょうか?

それとも8月13日の記者会見の内容は見せかけの演出だったのか?いや、上場企業としてそれは無いと思いますし、あったらまずいでしょう。

謎は深まるばかりです。

大原前社長の功績


大原前社長がドン・キホーテの社長に就任したのは6年前。在任中に売上高を2倍強、営業利益を2倍弱に拡大させました。

2020年6月期を最終年度とする中期計画、売上高1兆円、店舗数500店、ROE15%の目標は1年前倒しで全て達成しました。

その成果は申し分ないといえるでしょう。早期に目標を達成し、潔くまた華麗な転身だと見られたのですが・・・。

大原前社長関連のSNSを見てみると、ただ今無職などの言葉が並んでおり、PPIHを退職したことは間違いないようです。そして、新たな作戦基地などという言葉も登場し、何か新しいことを始めようと計画しているようです。

創業者である非常勤取締役、安田隆夫氏


いったんはドン・キホーテから身を引いた安田氏ですが、2019年1月に非常勤とはいえ、PPIHの取締役に復帰しました。そして、創業者である安田隆夫氏の影響力は依然として大きいと考えて間違いないと思います。

このあたりが大原氏の退職と関係しているのかもしれません。記事の中にも『最近は安田氏と大原氏の間に、意見の食い違いが出てきたようだ。」という語る関係者は少なくない。』という一文があります。

安田氏の巨大な影響力(憶測)


潔くドン・キホーテを去ったかに見えた安田氏が非常勤取締役として依然として大きな影響力を発揮しているのはなぜでしょうか?

勝手な憶測ですが理由は大きく2つ考えられます。

(1)PPIHが直面する危機に対応するため

別に業績が悪くなったのではありません。むしろ絶好調です。では何が危機なのか?

それはユニーの子会社化にともなう問題です。

記事の中には『ユニーの業態転換を大原氏は当初の5年で100店を、3年で100店に加速すると表明したが、吉田さん(新社長)は急ぎ過ぎだと危惧しており、安田氏も吉田さんの意見に賛成だった。』などと書かれています。

吉田氏というのはPPIHの新たな社長です。

ユニーを今後どうしていくか、ユニーとの関係がぎくしゃくしており、その危機を創業者としてのカリスマ性を発揮して、なんとか収拾し、乗り切るために復帰したのではと推測します。

(2)ユニー子会社化で野望復活

いったんは身を引いたものの、ユニーを子会社化したことでPPIHの事業規模は一気に拡大しました。

売上高は2兆円規模に達する見込みであり、日本の小売業界で4位に昇りつめました。
(1位:イオン、2位:セブン&アイ、3位:ファーストリテイリング)

思い出されるのは10数年前の出来事。オリジン弁当を展開していたオリジン東秀の敵対的買収劇です。イオングループがオリジン東秀のホワイトナイトとして登場し、結局、オリジン東秀はイオン傘下になったと記憶しています。

その際、イオンの岡田社長とドンキの安田社長が握手をして和解し、ドンキの店舗がイオンのテナントとして出店するなど表面的には良好な関係を築いたように思えるのですが・・・。

当時の安田社長はずいぶんと悔しい思いをしたのではないでしょうか。

そして今、イオンの背中はまだまだ遠いとはいえ、おぼろげながらその姿が見えはじめ、決して追いつき追い越せないレベルではなくなりました。

20191116PPIH.jpg

もう一発、どこかを買収するチャンスが現れれば一気にその差が縮まり、互角の勝負を挑める可能性は十分にあります。

勝手な憶測ではありますが、安田氏が今回の社長交代劇に影響を与えたであろう理由は(1)または(2)、またはその両方ではないかと思います。

またその他の理由として、新社長の吉田氏の要請があったことも考えられます。吉田氏は現場を体験したことがないとのことであり、強烈な後ろ盾が欲しかったのではとも考えられるのです。

企業文化の違いによるユニーとの確執


ところで、急成長を続けてきたドン・キホーテと伝統的なGMSであったユニーの企業文化の違いは水と油といっても過言ではありません。

昨年(2018年)8月の決算説明会で大原社長(当時)は「我々は変化対応を是とするが、彼ら(ユニー)は変わらないことを是とする。」とある種軽蔑とも取れるような発言をしています。

いまやユニーの取締役は12人中、9人がドンキ出身者となり、ユニーには一気にドンキの文化が流れ込んでいます。

そして、ドンキの文化は「数字がすべて」。数字が上がらなければ減給や降格は当たり前の社風です。言い訳は許されません。

記事によれば、昨年(2018年)秋、大原氏がユニーの若手社員とランチミーティングを実施し、その際、「50歳の役職者の年収はどのくらいか?」という若手社員の質問に対する回答は、「ドンキには50歳以上の役職者は1人もいない。」であったといいます。

ドンキの文化を知らない若手社員はさぞや驚いたことでしょう。

企業文化の違いについていけないユニーの社員にはかなりの退職者が出ており、現場は人手不足に陥っており、これがPPIHの抱える危機の一つにもなっています。

思えばドンキの社長退任劇には謎がつきまとう


今回の大原前社長の退任(退職)も不可思議なものですが、思えば2005年から2013年まで社長を務めた成沢氏の退任劇もいささか不可解な印象を受けました。

創業者の安田氏の期待を背負い社長業を行っていた成沢氏ですが、病気療養に専念するということで突如退任したのです。

病気ならいたしかたありませんが、当時まだ52歳ほどの若さ。会社に籍をおいて、回復したら復帰するという手もあったと思うのですが・・・。何か裏があるのではと勘ぐりたくもなります。

それにしても45歳ほどで社長になったのですから、まだまだ経験不足な面もあったでしょうし、大変だったであろうことは想像に難くありません。

そして、今度の吉田新社長とは


さて、新社長に就任した吉田社長とはいったいどんな人なのでしょうか。

吉田氏はドンキのプロパー社員ではありません。もともとはアメリカの大手コンサルタント会社、マッキンゼーにいたかたです。(あの大前研一さんの出身と同じです。)

安田氏が声をかけ、2007年にドンキに入社。ドン・キホーテUSAの社長を務めたほか、M&Aやグループの戦略立案にも携わっていたようです。

ユニーの完全子会社化をまとめあげたのもどうやら吉田氏の功績のようです。その成果が認められての社長就任というところでしょう。

創業者である安田氏は吉田氏登用の理由として、企業規模の拡大にともない、行政や金融機関、商社との折衝力が必要になってきているといった趣旨の発言をしています。

安田氏はプロ社長の登用に否定的であったと認識していますが、現場たたき上げの社員では対応しきれないほど規模が拡大したということなのでしょう。

今後、社長ポストは4年の任期制にするということで、吉田新社長の任期もあと4年程度で終わる可能性があります。

最後に・・・


真相はやぶの中。外部の人間には表面的なことしかわかりません。しかし、創業者である安田氏の影響力が依然として大きいと推測するのは私だけではないでしょう。まるで院政を引いているかのようです。

いったんは子離れしたかに見えた安田氏。しかし、実は子離れしていなかったのか?それとも子に危機が迫っているから復帰したのか?

そもそも非常勤となっているのに実は常勤状態だったのか?任せたはずの社長のやり方に我慢がならなかったのか?

想像は膨らむばかりですが、その真相を知るすべはありません。それにしても重なり合う印象を持つのはファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井社長。やり手の経営者は部下のやり方に苛立ちを覚えるのでしょうか。

いずれにせよ、株主にとっては業績を伸ばしてくれれば良いだけの話であり、その過程はどうでもいいといってしまえばそれまでなのですが・・・。

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【2019/11/17追記】

一部内容に誤りがありましたので、修正しました。具体的には2019年9月25日に創業者たる安田氏が非常勤取締役から常勤取締役になったかと勘違いをしておりました。

実際のところ、安田氏は2019年1月に非常勤取締役に就任しており、2019年9月25日の株主総会で再任され、以降も非常勤取締役でした。大変失礼いたしました。

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