自由貿易が良いか、保護貿易が良いか?イギリスとインドの関係から考える

世界が自由貿易と保護貿易の間を揺れ動いております。いったい正解はどこにあるのでしょうか。イギリスとインドとの関係を基に考えてみました。
新自由主義の台頭
1980年代に登場し、近年まで世界を席巻した「新自由主義」。いわば市場原理主義者の主張であり、端的に言ってしまえば、市場に任せておけば物事はすべてうまくいくという妄想の一種です。
市場に任せて淘汰されるべきものは自然に淘汰されるという適者生存の動物的社会をもっともらしく是としますが、その裏側は非情かつ冷酷な考え方です。
キーワードとしては「自己責任」「構造改革」「規制緩和」「自由貿易」「抵抗勢力」「既得権益」「会社は株主のモノ」「グローバリズム」などがあり、このような言葉をうまく散りばめて、自由化を正当化していきます。
ところで、個人的見解として自由貿易と保護貿易、どちらかが一方的に正しいということはありません。要はバランスの問題です。
そして、行き過ぎれば振り子は戻る。今は行き過ぎた新自由主義が衰退しつつあります。
自由貿易と保護貿易の是非
自由貿易と保護貿易の是非を考えるにあたり、産業革命前後のイギリスとインドとの関係にフォーカスするとその特徴が見えてきます。
もともとインドは綿花の一大産地であるとともに綿製品の輸出大国でした。綿織物は伸縮性に富み、軽くて汗もよく吸収するということで非常に優れた製品です。
イギリスでは毛織物業が盛んでしたが、綿製品がインドから輸入されるとその魅力から途端に人気を博して毛織物は衰退していくこととなります。
イギリス人はなんとかしてイギリス国内で綿製品を作りたいと思ったのですが、インドから綿花を輸入すれば高い運送費がかかります。そのうえイギリスは人件費がインドに比べて非常に高い。
当然インドと真っ向勝負すれば負けてしまいます。では、イギリスは輸入に頼り続けるしかないのでしょうか?
イギリスが取った戦略は高い関税でインドの綿製品の輸入を食い止めることでした。
時間を稼ぎ、機械化を進めたのです。そして、高い人件費でも生産性を格段に向上させることでインドよりも競争力をつけることに成功したのです。いわゆる産業革命です。
高い生産性を獲得したイギリスはインドに自由貿易を迫ります。インドから綿花を輸入して、機械で綿製品を爆発的に生産し、それを再びインドに輸出するのです。
インドの綿織物業者はイギリス製の綿製品に見事なまでに駆逐され、困窮を極めることとなります。
そして、イギリスはインドを植民地化していくわけです。
以下は超長期の一人当たりGDPの推移を示しています。

(出所:社会実情データ図録)
産業革命によりイギリスが一気に豊かになる一方で、インドが貧困化していく姿が見て取れます。
中国も同様に貧困化しており、インドでの成功モデルが中国にも転用されたものと推測します。
イギリスの衰退
しかし、皮肉なのはイギリスのその後です。
以下は長期の一人あたりGDPが世界平均の何倍であったかの推移を示しています。

(出所:社会実情データ図録(一部加工))
第二次世界大戦後、産業保護を図ったイギリスの製造業は逆に競争力を失い、ドイツなどの輸入製品に駆逐され、イギリス病ともいわれる低迷期に入ります。赤丸部分がその低迷期にあたります。
先進諸国が成長する中、イギリスは相対的に貧しくなっていきました。
ミイラ取りがミイラになってしまったわけです。
まとめ
自由貿易を貫けば自国の産業は育たず、保護貿易に安住すれば国際競争力を失い衰退するのではないか。
それが私の行きついた単純な結論です。
ほど良いバランス感覚が常に求められるわけで、それを司るのはまさに政治家の役割なのです。しかし、昨今の日本はそのバランス能力を徐々に、しかし確実に失っているように感じます。
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