中国、数十年にわたるしたたかな戦略で世界の覇権を握る

パンダ



1991年、中国の指導者の一人であった鄧小平は、「常に冷静であれ、堅固であれ、われわれの能力を隠せ、チャンスが来るまで待て」という戦略を中国軍の幹部に示したといいます。

その目的はもちろん世界(主にアジア)の覇権国になることです。



中国の国家戦略


20世紀後半から中国は経済的にも軍事的にも脅威の成長を遂げてきました。中国の目標はアジアの覇権国となること、最終的には世界一の覇権国になることであろうと断定できます。

しかし、露骨にそれを示せばアメリカの圧倒的な国力の前に押しつぶされることは百も承知でした。

そのため、表面的には中国は平和を愛し、覇権国となるつもりはないという素振りを見せて、中国に対する圧力を避けながら、覇権を取るために経済力、軍事力を増強していくというのが戦略の要でした。

2006年に発行された国際政治アナリスト、伊藤貫さんの著作『中国の「核」が世界を制す』の中に、中国の隠された野望を実現するための外交目標がまとめられています。

そして、それはまさに今を予言していたかのように的を得ているのです。以下にその内容をまとめておきます。

目標:アメリカとの衝突回避


以下、網掛け内は引用部分です(一部引用を含みます)。

①2020年頃まで、アメリカ政府と本格的に衝突することを避け、現在の(中国にとって非常に有利な)国際経済システムを壊さないように努力する。

・・・中国の急速な経済成長は1980年から始まったが、このキャッチアップ・プロセスを2020年頃まで40年間続ければ、中国はアメリカに十分に対抗できる強大国になるだろう、と中国政府の幹部は予測しているのである。その時期が来るまで中国政府は、「中国の台頭」が「平和的」なものであることを強調し続け、外国市場への輸出拡大政策を継続し、外国企業からの対中直接投資と技術移転を続ける必要がある。
江沢民前総書記も2004年7月、人民解放軍幹部が集まった席で、「台湾を併合する時期は、2020年前後が望ましい」と発言している。・・・

アメリカの神経を逆なですることなく、外国資本を中国に呼び込んで先端技術を取り込んで工業力を向上させ、製品を大量生産して輸出し外貨を稼ぐ。そのためには中国がいかに平和的であるかのように装う必要があったということです。

その一方で、国力が高まれば台湾を併合するという恐ろしい国家目標です。

2019年1月の習近平国家主席は台湾に関し、平和統一を目指すのが基本だとしたうえで、外部(当然アメリカを意図する)の干渉や台湾独立勢力に対して武力行使を放棄しないと演説しました。

また、台湾は中国の一部であり、いかなる勢力も変えることはできないとも主張しています。今なお、その戦略は変わっていないのです。

目標:アメリカに対する外交プロバガンダ展開


②アメリカの政治家・官僚・学者・マスコミ人に対して、「中国は、今後もアメリカと覇権闘争するつもりがない」ことを繰り返し宣伝し、米国政府が「中国封じ込め」戦略を実施する時期を遅らせる。

・・・中国政府が、「中国の台頭」は「平和的、友好的、反覇権的」なものであるという外交プロパガンダを1990年代から執拗に繰り返しているのは、「中国封じ込め」戦略の実現を少しでも遅らせようとする国家戦略によるものである。

中国はいずれアメリカが中国封じ込めに走ることを予測していたのです、30年も前から。そして、まさにそれは起こりました。

米中貿易戦争です。ところがそれは2018年のこと。あまりに遅すぎました。中国の戦略は見事に成功したのです。

なにしろ25年以上、封じ込めを遅らせることができ、その間に中国はアメリカと互角の勝負を挑めるまでに成長したのです。

目標:日本を封じ込める


③日本に自主防衛能力を持たせない

1972年2月、北京でニクソンとキッシンジャーが周恩来と外交戦略の会談をしたとき、米中両国首脳は、「日本に自主的な核抑止力を持たせない。日本が、独立した外交政策・軍事政策を実行できる国になることを阻止する。そのためにアメリカは、米軍を日本の軍事基地に駐留させておく」という内容の、米中密約を結んだ(この密約の要点を書き留めたニクソンの手書きのメモが残っている)。このときから現在まで、「日本に自主防衛能力を持たせない」という中国政府の方針は不変である。
アジアで最強の覇権国になる、という明確な国家目標を持つ中国にとって、「日本の自主防衛・日本の自主的核抑止力」は、米国による「中国封じ込め」と同様に、中国の国家目標の大きな障害物となるものである。・・・

1972年ですから今から約50年ほど前の話です。状況の変化は多少見られます。日本に対するアメリカの態度です。

アメリカでは、日本の軍事力増強を許容する政治家は増えてきているものと思います。トランプ大統領が典型です。どの国も自国ファーストでやってくれということなのですから、日本も自国ファーストで自立した国防力(核抑止力を含む)を持つことに異議を唱える可能性は低くなってきています。

しかし、中国はそうではありません。アジアで覇権を取るには、日本が強国であっては困るのです。経済的にも軍事的にも日本が弱体化していくことが中国の国益にかなうのです。

そして、その目論見はまさに「失われた20年」で達成されました。日本は今だ憲法改正すら道筋がつかない迷走ぶりなのです。

目標:諸外国との友好を表面上維持する


④ロシア・EU・韓国・東南アジア諸国を味方につけておく。

中国がアジアでもっとも警戒する国は、アメリカと日本である。・・・

・・・中国政府は、「世界中の国が中国と友好的な関係を維持している。それにもかかわらずアメリカと日本だけが、中国と平和的・友好的な関係を築こうとしない。アジアでの平和実現を妨害しているのはわれわれではなく、アメリカと日本だ」と、日米両国を責め立てることができる。・・・

・・・中国政府が「平和的台頭」PRによってロシア・EU・韓国・東南アジア諸国を味方につける努力をしていることは、日米両国が厳しい対中政策を採用することを困難にしている。

まさに日米ともにこの戦略にまんまと乗せられました。アメリカでも日本でも親中派の政治家をゴロゴロと生み出し、中国寄りの政策が繰り返されてきました。

そして、今もまだ「一帯一路」構想により、中国は世界の国々を取り込もうとしています。

アメリカがWHOへの援助中止をほのめかせばすかさず中国は援助の手を差し出すなどアメリカへのライバル心むき出しといったところです。

ところで、この戦略も国力をつけた現在にあっては徐々に意味が薄らいできました。アメリカの対中政策が厳しくなっても、それに対抗する力をつけたからです。

以下は1990年からの日米中の名目GDPの推移を示しています。

20200424GDP.jpg
(出所:世界経済のネタ帳)

1990年にはとるに足らないほどであった中国のGDPは2000年代に入り加速的に成長し、あっという間に日本を追い抜き、2倍以上の経済規模となりました。このままいけば10年以内にアメリカをも抜き去る勢いです。

しかもこれはあくまでもドル換算した名目GDPであり、購買力平価でみれば中国はとっくにアメリカを抜き世界一の経済大国です。(※)

それにしても日本の停滞ぶりが目に余ります・・・。そして、中国はまずは韓国、東南アジア諸国から属国化を進めようとしているようです。

(※)例えば1ドル100円のときに、アメリカでは1ドルで1本のジュースが買え、日本では100円で2本のジュースが買えるとしたら、本来は1ドル50円で均等すべきと考えられる。ところでこのとき、アメリカの名目GDPが1ドル、ドル換算した日本の名目GDPが1ドルだとすると、同じGDPでも日本の方が豊かな暮らしができる。円が安いからである。このような場合は円高が進んで均等していくはずである。
中国の場合、元の為替変動を自由化していないため、上記のような市場機能による調整が働かず元安状態が続いている。そのため、ドル換算した名目GDPはアメリカより小さいが実質的にはアメリカよりも大きな経済活動を行っている。上記の例でいえば、80円しかないのに2本のジュースが買えるような状態にある。


個人の感想です


2006年には現在の状況はほぼ正確に予測されていました。にもかかわらず世界は中国の術中に見事なまでにはめられました。もはや手遅れです。

しかし、中国の戦略に見事にはめられたという認識を持つことは必要でしょう。でなければ今後も騙され続けます。個々の中国人はいい人もたくさんいるのでしょうが、国家としては戦略に長けたずる賢さを持っているといわざるを得ません。

だからこそ中国は1990年代に立てた目標をほぼ達成し、もはやアメリカを恐れることなく互角に対抗することができるまでに成長したのです。

「常に冷静であれ、堅固であれ、われわれの能力を隠せ、チャンスが来るまで待て」から約30年。中国にはとうとうチャンスが来たのです。

日本はそのチャンスを生かされることのないよう備えなくてはなりません。

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